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連れて来られたのは五階建てのテナントビルだった。
入り口に車を止めると何人もの怖そうなスーツの人が整列して、甲斐甲斐しく車のドアまで開けて迎えてくれる。
ここ、もしかして五階全て立花さんの会社なのかな?
俺に気付いて会社の人が俺のドアも開けようとして立花さんが制した。
「お前らみたいな強面見たら怖がるだろ。下がれ」
怖そうな人たちを退けて、立花さんは俺の為に車のドアを開けてくれた。
「エレベーターまで一人で歩けるか? 支えた方がいいか?」
そう尋ねられると――首を振るしかなかった。
「おはようございます!」
エレベーターまで何人もの、年上の怖そうな――いかにも堅気じゃないような人たちに挨拶されながら立花さんの背中に隠れて歩いた。
「怖がってるだろ。静かにしろ」
「すいません!」
立花さんの理不尽な言いがかりにも、皆謝って来る。
俺にしてみれば一番怖いのは貴方です、と言えないけど。
皆の視線も痛かった。
俺みたいな若い、こんな髪も伸ばしたチャラチャラした男が、立花さんみたいな人と一緒に歩くなんてきっといろいろ邪推されるに違いない。
エレベーターは一番上の階で止まり、そのまままた腰を支えれらながら降りる。
「社長、おはようございます。――あれ?」
糸の様な眼の細い、穏やかな笑顔のスーツのおじさんが、ドアを開けてすぐのディスクでパソコンを弄っていたが立ち上がる。
「――例の」
短く立花さんはそう言うと、その男の人は目を見開いた。
「あ――、無事に会えたのですか。凄いじゃないですか! 絶対に怖がられると思ったのに」
「うるさい」
意外と大きな――190センチはありそうな男の人が俺の手を両手で握るとブンブン振って来た。
「宜しくお願いします。私は社長の第一秘書の菊池と申します。まあ第一秘書と言いましても、他の人たちはこの人の怖い面に逃げだしましたけどね」
「おい、うるさいぞ。それより、こいつに飲み物とタオルケット持ってこい。ソファに寝とくのが今日のこいつの仕事だ」
「ええ?」
「畏まりました」
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