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――立花さんが帰ってきたんだ。
開けて、お帰りなさいって声をかけなきゃ。
そう思ってパタパタと走っていくと、玄関のドアがガチャリと開いた。
「お、お帰りなさ――」
「お邪魔します――って? アレ、誰?」
ドアを開けたのは、ロングコートを今にも脱ごうとしているスーツの男の人だった。
眼鏡の、誠実そうな、清潔感のある優しそうな人。
切れ長の眼は立花さんと一緒なのに、目元がふんわりと優しく滲んでいる。
「俺、部屋を間違えましたかな。此処って立花優征の部屋、だよね?」
「あ、はい。あの、立花さんは今、留守でして」
しどろもどろに答えていると、その人は慣れた手つきでコートを脱ぐと玄関の壁にかけた。
「詳しくは、優征が帰ってから聞きますからちょっとソファお借りしますね」
「え、え、え、!? あの、困ります、俺はそんな権限ないですから」
勝手にこの人を家に入れたってばれたら、――頭を過るのはあのクローゼットの一番上の引き出しの中身だ。
「もう二日もろくに寝てないんです。事務所へ帰ると――うるさい秘書が待ってますし。一時間だけ仮眠させていただきます。優征は俺なら怒りませんからお気づかいなく」
「あの、本当にその」
「それにしても、君、とても綺麗ですね。それに凄く悩殺的な格好」
「へ?」
「あ、悩殺的とかちょっと親父臭いですかね。そうだ、君さえよければいつでも連絡下さいね」
スーツの裏から名刺入れを取りだすと、俺に名刺をくれた。
その名刺には、テレビや芸能に疎い俺でさえ知っているような超有名芸能事務所の名前と、その横に代表取締役社長『寒田 緑』と書かれていた。
そしてそのまま目線を下げてから気が付く。
「ぎゃああああ」
俺は、立花さんに命令されたままのYシャツ一枚に下着姿の格好のままだったんだ。
男同士とは言え――見苦しすぎる!
どうしよう。
家に入れてしまった時点でもう立花さんが怒るのは目に見えてるけど、
俺、ズボン着てもいいかな?
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