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「ふっ んっ」 鼻から息を吸う暇もないぐらい、乱暴に吸われ、溢れてくる立花さんの唾液を、こくりと飲みほした。 やっと離された唇から、精一杯息を吸っていると、そのまま立花さんが圧し掛かって来て耳元でゆっくりと俺に問う。 「クローゼットの一番上の引き出しは――ちゃんと見たか」 その言葉に目を見開く。 「この足を曝け出していいのは俺の前だけだ。お前にそれを躾た方がいいようだ」 そのまま起き上がる立花さんの腕を、俺は両手で必死で引きとめた。 「や、やです、アレは嫌です。俺、俺、もう、しません、待って、ください」 頭を振って、何度も何度も謝るのに、立花さんの目は冷たく俺蔑んだままだった。 「……離せ。お前は嫌だしか言わない」 「立花さんっ 立花さん!」 必死で縋る俺を――立花さんは悲痛の目で見る。 うっとおしいのか、縋る俺の姿が余りにも痛々しいのか。 「優征、その子が怯えているように見えるのは俺の間違いですか?」 開け放たれた寝室のドアの前で、仁王立ちした寒田さんが此方を睨んでいる。 「緑」 「止めてあげなさい。怯えているその子が、可哀想に思えない屑ですか、君は」 立花さんは、俺の足にタオルケットを押しつけると立ち上がった。 「アポなしで入って来るなと俺はいつも言ってるだろ。それにこいつは俺のだ。お前でさえ文句は許さない」 「文句ではありません。お金で買ったデリヘルはどうか知りませんが、だからと言って好きにしていいわけは」 「そんな奴らと一緒にするな!」 珍しく感情を露わにした立花さんは寒田さんへ食ってかかった。 「こいつは、そこらの奴とは違う! こいつは……」 背中を向けている立花さんの顔は此方から見えなかった。 けれど、声を吐きだすように、小さく言った。 「こいつは、ばーさんが言っていた奴だ」 ばーさんが言っていた? 首を傾げる俺とは反対に寒田さんは更に目を吊り上げる。 「だったら尚更、優しくしてやらないといけない相手だろ!」

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