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「火事で全焼したんじゃなかったのか?」
「……いや、そう報道させただけだ。案の定、焼けた榛葉の部屋に侵入していた奴がいたから捕まえようとしたら――っち。油断した。まぁ当分は歩けないだろうがな」
マスクにサングラスにニット帽をかぶり、正体さえ隠していた。
壁に頭を叩きつけて、血が出るまで殴り、蹴りあげて正体を見ようとしたら、ナイフが銀の孤を描き俺の首筋を掠めた。
そして奥の部屋から出てきた一人も交えて、殺すつもりで殴った。
今逃がしたら、榛葉に危害を加えるかもしれないから本気で。
そんな俺の気持ちも知らずに、帰宅すれば緑なんかを招き入れ、俺がつけた証だらけの足を見せやがって。
「優征、それってまさか、やはり榛葉さんは――」
「立花さん!」
今にも泣き出しそうな榛葉が、緑の後ろから飛び出してきた。
「その傷は……俺のストーカーからやられたんですね! なのに俺、俺は立花さんの約束破っちゃって」
確かに、ばーさんが言っていた通り、榛葉は心も綺麗かもしれないが、
散々怖がっていた俺の傷を心配しに飛び出すなんて。
人を信じやすいバカ正直な性格は嫌になる。
「て、手当てしなきゃ」
テーブルの上に置いていた救急箱に、身体を震わせながら手を伸ばす。
そうだ。もし今日、マンションに向かったのが俺ではなくお前だったら今頃殺されていたかもしれん。
もっと怖がればいいんだ。
もっと。
緑が見ている前で、俺は榛葉の震える腕を引っ張るとソファに投げ倒した。
「優征!」
「――お前のせいでついた傷だ。舐めろ」
人が見ている前で――プライドを壊して屈辱に浸かって……俺に従わせてやる。
そうすれば、お前は人を疑うし、俺の命令ならば危険な場所に行かない。
飼い慣らしてやる。
「どうした? 早くしろ!」
怯えた目で躊躇しながらも、覚悟を決めて息を飲む。
「止めろと言っているだろう!」
緑が俺に掴み掛かろうとした時、インターホンが鳴った。
何度も何度も何度も。
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