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「見てこい。巻いたつもりが追っ手かもしれん」 「……」 緑は冷たい目で俺を見ながらも、すぐにモニターを確認した。 そして眼鏡をはずし目頭を押さえながら溜め息を吐く。 「誰だ」 「俺の秘書です。情熱的な子でしてね。はぁ……もうこの隠れ家もバレバレですね」 フラつきながらもモニターのオートロックボタンを解除して玄関へ向かった。 ――俺はお前の秘書まで家にあげるつもりはない、と言おうとして、目を見開いた。 俺の肩に、榛葉が手を置くと、赤く小さな舌を出して俺の首筋に顔を埋めた。 犬のようにぺろぺろと傷口に舌を這わせたのだ。 「ちゃんとした消毒もさ、せてくれますか?」 羞恥で真っ赤になった榛葉に、心が抉れる。 痛めつけたい訳じゃない。 優しくしていないわけじゃない。 お前を守るためと大義名分をいいことに、 俺はお前を傷つけている。 「好きにしろ」 「……ごめんなさい。俺のせいで」 「お前の荷物はほとんど焼けていて使い物にならないものばかりだったが、――ヘアサロンの方はハサミやロッカーのモノは無事だったぞ」 「そうですか……」 消毒を綿に染み込ませながら、榛葉はホッとした様子を見せた。 丁寧に手入れされたハサミ等は、榛葉にとっては高価なものだったのが伺えた。 「全然足しにならないと思いますが、ハサミも売り飛ばして構いませんので」 「は? 大切な仕事の道具だろ」 意外な言葉に眉を潜めると、力なく笑って首筋に綿をつけた。 「こんなに借金が膨れた今、美容師に戻れるなんて思っていませんよ」 「―――」 あんなに楽しそうに訪問美容師をしていたくせに、簡単に諦めるというのか。 眉間に皺を寄せて、途端に不機嫌になった俺を、榛葉はびくびくしながら見上げる。 「もう!! 社長の馬鹿!! こんなヤクザなんで構うんですか! 僕がこんなに心配してるのに酷すぎます!」 玄関で恋人のように緑と秘書が痴話喧嘩を始めたらしい。

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