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四、反抗期
side:立花 優征
あの日以来――榛葉が従順になった。
家に帰ると抵抗なくズボンを脱ぐ。
俺が身体に触れようとすると抵抗せず黙って目を閉じる。
あの日、泣きながら俺は酷い事しかしないと言った榛葉。
俺にどんな言葉を求めていたのか。
お前が二度と死のうと考えないように、俺はお前の価値をちゃんと伝えた。
お前は立花不動産の財産を半分相続できるんだ。
俺の花嫁として。
そう伝えたつもりが伝わらず榛葉は沈んでいるように見えた。
「緑、ちょっと俺は用がある。榛葉を任せたぞ」
『任せたって?』
車の中で電話をしながら、運転中の榛葉を睨む。
俺の電話には興味がないようだ。
「野暮用で一時間ほど榛葉と離れるから、その間一緒に居ろ」
マンションで落ち込んだ榛葉を一人になんてできない。
『過保護――』
緑が呆れていたが構うものか。
全焼は免れた、榛葉が働いていたヘアサロン。
葉山が移転店に運べるものは運ぶと言っていたので榛葉の荷物だけ引き取りに行った。
榛葉を連れだって、全部あるか確認させたがったが――先日の榛葉の部屋を荒らしていた二人組に吐かせたら、依頼主を把握できなかった。
俺には手を出せない代わりに、榛葉になら何をして良いと思っている輩がいると言うことだ。
わざわざ榛葉を怖がらせる事を言うつもりはないから黙っておくが、今は危険な外に出してやらない。
俺と榛葉が接近したと知れば慌てる奴等がごろごろいるから、まだ騒ぎ立てるのも控えている。
「これだけか」
「はい」
怯えた様子の葉山を睨み付けると視線を泳がす。
「榛葉の給料もちゃんと日数で割って振り込めよ」
「……はい」
ギリギリと歯を食い縛る葉山を見逃せるわけじゃなく、胸ぐらを掴む。
「榛葉は被害者だ。恨む奴を間違えるなよ」
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