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「榛葉さん。お寿司以外に何が好きですか?」
寒田が優しく質問すると、榛葉はちょっとだけ首を傾げて考える。
「コンビニのツナマヨおにぎりが好きです」
その答えにまた寒田が吹き出す。
「コンビニじゃなく、どこか好きな店とか」
「立花さんが美味しいものを用意してくれるから……希望はありません」
へらっと笑ったくせに、酷く歪で、今にも泣き出しそうだった。
希望がないんじゃなく、言えないだけ。
俺も言わない。
叶えてくれるような奴は居なかったから、言わない。
自分だけが知っていればいい。
「寒田。もう帰っていい」
「帰っていいって。――さっさと財産相続の手続きしなければ、榛葉さんが可哀想ですよ。貴方の弁護士を」
「婆さんが半分ボケてたんだろ。榛葉が女ならさっさと結婚したり妊娠させれたが」
「え……榛葉さんって男なの?」
寒田の声に榛葉が頬を膨らませた。
「酷いです。どう見ても男じゃないですか!」
どう見ても、分かるか。
俺だって一度ひんむいただろうが。
女だったら――もっと逃げ出さないように出来たのに。
「良いから、さっさと帰れ。あと、榛葉、これ」
テーブルに仕事で使っていたシザーケースを置くと、酔って焦点の定まらない目が見開かれた。
「榛葉さんに優しくしてやれよ。男でも手元に置いたのはお前だろ」
「態度で示している」
「いい加減にしなさい!」
寒田が怒鳴ると同時にリビングの方からガシャンと大きな音がした。
「優征!」
「うるさい」
無理矢理追い出して内側からもロックをかけた。
そしてリビングへ向かうと、床にシザーケースが落ち、中身がバラバラになっていた。
榛葉の姿はない。
大切なものじゃなかったのか。
床に散らばったソレを見て、思う。
諦めて 逃げて 思考を停止すれば お前は幸せなのか。
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