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榛葉は寝室のベットに潜り込んでいた。
「榛葉、飯は?」
「…………」
「人が親切に持って帰った道具を床に落とすのはどういうつもりだ」
冷静に――冷静に怒らず、怒鳴らないように静かに言った。
「別に頼んでません」
「……榛葉」
「気に食わないならまた酷いことすればいいじゃないですか。俺は抵抗しません。抵抗できても敵わないし」
酔った榛葉は全く意地っ張りで可愛いげがない。
が、これが榛葉が俺に思っている本心なんだろう。
「別に『俺』が貴方は必要じゃなかったじゃないですか。貴方の立場に必要だったのがたまたま『俺』だっただけで、『俺』である必要は……ってあれ?」
呂律が回らない榛葉は、何が言いたかったのか纏められておらず、自分で言いながら首を傾げている。
そのあどけない姿が散らばったシザーケースと相容れなくて眉をしかめてしまう。
「お前、逃げてばかりで満足か」
腕を掴むと、怯えた姿を見せるのでそのまま両手首を掴み、ベットへ押し倒す。
「俺から全て奪われた現状から逃げようとして満足か」
「貴方が逃げれないって言った……」
じわりと榛葉の瞳に涙が浮かぶ。
こんなに好きなのだからわざわざ危険な場所に俺が逃がすと思っているのか。
「そ――それは、今お前を一人にするとストーカーがまた現れるかもしれないからだ! 分かったか」
「でも貴方のお金を守るためだ。『俺』だからストーカーから守っているわけじゃない!」
「お前は何をそんなにこだわってるんだ!」
冷静に――と思ったのに怒鳴り付けてしまい、ぎゅっと目を閉じて怯えさせてしまった。
だが――酔ったこいつは俺には手に追えない。
「邪魔な存在としてしか扱われてきた事、ありませんから」
力なく笑うと、今度は顔を横に背けて身体の力を抜いた。
「貴方にいっぱい生意気な事を言いましたけど、俺、酔ったら起ちませんからね! ひ、酷いことしようとしても出来ませんからね!」
酷いこと……。
抱き合う行為をどうすれば榛葉が大切だからするのだと伝わるだろうか。
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