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「うそ」 ガチャガチャとトイレのドアノブを回しても、鍵はかかっていて開かなかった。 「お前は恋愛経験もないのか」 寝室の扉の前で、立花さんが鍵を指先で回しながら俺を冷たく見る。 「こう言うときは、俺にキスの一つでもして強請れば、鍵を譲ってやったのに」 「――っやっ。ドア、あけて下さい」 「もっと強かになれ。今回は、勉強だと思っておけ」 パタンと寝室の扉を閉められた。 どちらにしても、俺が、立花さんにされることを酷ことだと認識せずに自分から誘ってみせる強かさも見せろってこと? だからってこんな、こんな、こと。 俺は貴方が分からない。 俺だって、優しくしてくれたら逃げたり、逆らったり、しないのに。 何で、言葉も優しさもくれないで、支配することしか考えないの? 俺がそんな価値しかないから? 「あっ」 もう、もう限界だった。両手で抑えても――止められない。 Side:立花優征 まだ、抵抗する意思はあったらしい。 人形みたいに壊れた榛葉を抱くつもりも守るつもりもなかったが、強く成長しつつ支配するというのは、難しい。 もう、廊下で粗相でもしているだろうと廊下へ出ると、トイレの前で蹲っていると思っていた榛葉は何処にもいなかった。 代わりにシャワーの音がする。 脱衣所から覗くと、慌てて走って入ったのだろう。 ドアを開けっぱなしで、シャワーを頭から浴びながら蹲る榛葉がいた。 「風呂とは少しは考えたな」 「……」 「?」 湯気が風呂に立ちこめていないことに気づいてシャワーと止めると、冷たい水を浴び続けた榛葉の身体は冷たく、唇は紫になっていた。 「いじめすぎたか」 榛葉は、震える手を俺に伸ばして、頬を撫でた。 そして、力いっぱい爪を立て、引っ掻いていく。 「俺は貴方に命を助けられてから、――ずっと不幸です」 「……」 「貴方なんかに出会いたくなかった」 わっと咳をきったかのような、子供の様な泣き方に、庇護欲がそそられる。

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