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「勿論、あれも優征なりの優しさだからね」
「……信じられません」
フィッと横を向くと、寒田さんは苦笑いを浮かべたけれど俺はこの件に関しては……自分しか信じないと決めている。
「立花佐之助。飲食店経営」
オードブルの中華の蓋を開けながら、寒田さんは小さな声で言った。
小さな声ということは、寝室の立花さんには聞かせたくないって事だ。
「ゆかりさんが亡くなれば、財産のほとんどは…ゆかりさんの夫、立花喜之助の義弟の佐之助に渡るはずだった」
「寒田さん……?」
「飲食店経営って幅広く使える響きですよね。ヤクザに売上金を横流しするラウンジでも飲食店って言えますし」
寒田さんが饒舌な理由がよく分からず戸惑っていたら、寒田さんが屈んで俺の顔に息がかかるぐらい近づいてきた。
「貴方の命を狙う人がもしいたら、の話です。一番頭一つ飛び出てこの人なんです。証拠は……確かなものはないけどね」
「その酢豚食べて良いですか?」
「どうぞ。全部、榛葉くんが食べてくれると嬉しいなと選んだので」
やさぐれて、卑屈な俺は寒田さんが何を言いたいのか分かっていたけれど、無理矢理会話を終わらせた。
ヤクザと繋がりがある人物。
しかもゆかりさんの縁者として立花さんよりもしっかりした位置にいる。
この人から立花さんが俺を守ろうとしている?
違う。
きっと俺が『男』で、女だったら無理矢理結婚したり既成事実作ったりして――親戚を騙せたかもしれない。
でも男の俺じゃ駄目だから……守るとか嘘で、親戚から隠してるだけだ。
俺が憎いから……数々の仕打ちをしてきた。
ストーカーから受けた傷だって……あの人が俺の部屋を争うとした天罰だ。
「なんで君は、会えば会うほど優征から逃げてるんでしょうか。あいつ、本当に貴方に酷いことしかしてないわけじゃ」
「…………」
「お互い不器用過ぎますよ」
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