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「――っ」 シャワーから出ると、立花さんが脱衣場で煙草を吸っていた。 いつもならベランダが換気扇の下だったので、その奇妙な行動を警戒しつつ、タオルで体を隠しながら御風呂場で身体を拭いて服を着た。 もしかして鍵を奪いに来た? 狙いが分からない。 寒田さんがくれたパジャマの袖を通すと、少しだけ大きくて……首元が出ている気がして心許ない。 でも生地も気持ちが良い。 「お、お風呂頂きました」 お風呂場から顔を覗かせてそう言っても、立花さんは灰を灰皿に落としながら此方を睨むだけだった。 立花さんの前を通って扉を開けようとしたら低い声が淡々と溢れるように言った。 「まだ濡れてるぞ」 「か、髪はドライヤーで……」 「髪の滴が首に垂れ、胸に伝っていってる」 「!?」 胸元を見られていたんだと思うと、慌てて押さえたのに。 とろとろと髪の滴が胸に落ちていく感覚に――息を飲んでしまう。 それだけなのに……自分の身体を脱ぎ捨ててしまいたいぐらい恥ずかしくて。 なのに、言った張本人の立花さんは涼しい顔をして俺を見る。 「お前の前の仕事場の給料だ。金額に間違いがないか確認しろ」 立花さんがヒラヒラと一冊の通帳を取り出して俺に見せる。 給料日前だったから、前月の給料が丸々きちんと振り込まれていた。 「間違いありません」 「お前が持っておけ。カードも印鑑もある」 「……いえ。賠償額には足りませんが、どうか立花さんが――っ」 言い終わらないうちに、立花さんの長い手が俺の胸元に伸びた。 初めて会ったあの日、俺の胸元を強く引っ張り、ボタンを弾け飛ばせたあの乱暴な手が、俺のパジャマのボタンを1つずつ、丁寧に外していく。 「た…ちばなさん」 「優征と呼べ」 「……そんな間柄じゃありませんので」 「――逆らうな。呼べ」 全てのボタンを外され、パジャマが肩を滑り落ち肘の場所で止まる。

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