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両手で通帳を持っていた俺の右手を掴むと下へ下ろす。 パジャマが腕から落ちて、左肘にかかるだけになった。 「や――」 「この通帳に給料を振り込む。前の通帳は使うな。大して入ってなかったようだしな」 「………俺の起こした火事の賠償額を考えると給料なんて受け取れない。貴方が管理すればいいのに」 「タオルを貸せ。拭いてやる」 「貴方は何もかも滅茶苦茶です。俺……寒田さんの所へ逃げたい。逃げてしまいた――んんっ」 首にかけていたタオルを引っ張られ、立花さんの唇が俺を飲み込むように、食らいつくように重なる。 「んー!! んん―!!」 くちゅっと舌が交わう音が響き、口の端から唾液が垂れる。 まるで喋るなと脅迫しているみたいな、頭が真っ白になるキスだった。 唇が離れた瞬間、俺は通帳を落として、立花さんの腕にもたれ掛かり荒い息を整える。 煙草とアルコールの味がした。 そのまま、俺は黙って身体を拭かれた。 拭いても拭いても――長い髪からは涙のように滴が垂れていく。 髪を拭かない限り、身体は濡れていく。 立花さんの手は――俺の身体を丁寧に拭くだけで、いやらしい気持ちはないようだけど。 目は違う。 俺の肌を見ながら、獰猛に光っている。 「明日、抱く」 俺の不安を見透かすように立花さんが言う。 「満月の淡い光の下、お前の肌が浮かぶのは綺麗だった。だから抱く」 「もう止めて下さい。そんな事……」 「お前は俺の花嫁だ。花嫁にする。緑に何を言われようが俺はお前を支配から解放しない」 ――っ。 この人は、わざわざ宣戦布告をしてきた。 鍵を貰って安心していた俺を不幸のどん底へ叩き落とすために。 緑さんの言葉や俺の涙は、この人の前では無意味だ。 「俺といるベットの中だけが一番安心できると思わせてやる」

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