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足音が消えて、寝室の扉の閉まる音がした。
逃げるなと貴方は俺に…訳の分からない短い言葉を伝えた。
どうせくれるなら安心する言葉が欲しい。
疲れて倒れたら、床がだんだんと暖かくなっていった。
もしかして床暖房を立花さんが入れてくれたのかな。
「…………」
そんな、わけ、ない。
そんな……わけ、……ない。
恐る恐る、自分の胸に手を回して指先で尖ったその部分を抓ってみた。
「……あっ」
びくんと背中がしなる。
ピリピリとした甘い痛みが背中に電撃を走らせた。
指先で押し潰して、ぐりぐりすると……ぷっくりと硬くなる。
そんな…はずない。
認めたくないのに、涙がじわりと広がるのに、高ぶりからとろとろと溢れていく。
「んんっ」
タオル越しで拭いても拭いても溢れてくる。
でも自分で自分を慰めるのは嫌だった。
立花さんに言葉だけで支配されてしまった気分で。
「……んんっ」
駄目だ。
「――っ」
駄目なのに。
「ひ……ぅっ」
駄目なのに胸を弄る指先も、タオル越しに擦る手も止まらない。
ただただ、明日の行為を想像しながら俺は浅ましくも自分で自分を辱しめた。
あの冷たくて、酷くて、怖いだけの立花さんが……。
「あぁっ」
俺に優しく触れて、荒々しく乱暴に口づけをして。
「―――んんっ」
誰も触ったことのないその場所を暴かれる。
ぎゅっと目を閉じて、胸の尖りに爪を立てながら……タオルに顔を押し付け声を殺しながらイッた。
「…………」
一滴涙が垂れたのは、こんな行為に夢中になった自分の恥ずかしさ。
そして、立花さんに優しくされたいと願った自分の気持ちだ。
彼に優しくされたら、今のこの殺伐とした関係も、
理不尽な対応も、全て赦せるのに。
ただ俺は。
貴方に優しくされたいだけなのかな。
そんな小さな願いもきっと道具のような俺の立場では叶わないんだろうな。
そう思ったら涙が流れたんだ。
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