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「寝るときはパジャマぐらい着ろ」
「……すいません」
「廊下に昨日のままのパジャマが置いてあって呆れた。次は鍵を壊す」
「もうしません」
不機嫌なオーラ全開で、立花さんは朝から怖い。
強くなりたいって思ったのに、立花さんは年下のはずなのにやっぱりオーラが怖い。怖すぎる。
「まあまあ。芸能人では全裸で寝る人も居ますからね。はい、珈琲」
菊地さんがのんびりした口調で珈琲を差し出してくれたのでお礼を言ってから受け取った。
が、受け取った瞬間、俺のお腹がギュルルルと大きく鳴ってしまう。
「す、すいません」
朝、部屋を開けろ、開けませんの押し問答になり、結局立花さんがシャワーを浴びているうちに廊下に出てバタバタ着替え、朝ご飯を何も食べていなかった。
「お可哀想に。立花社長が朝食食べないから何も頂けなかったんですね」
「そういう訳じゃ……」
返答に困っていたら、立花さんが乱暴にディスクを叩いた。
「会社の目の前にコンビニがあるだろ。行け」
「え、あ、え?」
突然の言葉に珈琲を落としそうになる。
今、行けって言ったけど、俺一人で行っていいの?
一人にしたら駄目だとか監禁してまでゆかりさんの義弟との接触を回避していたのに?
「ビルの前に部下や菊地を立たせて見張っておく。コンビニまで30秒。逃げようとするなよ」
「は、はい」
どういう風の拭き回し?
益々立花さんが何を考えているのか分からない。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
立ち上がって通帳をポケットに入れようとして立花さんがまたディスクを叩いた。
「やはり俺も行く」
「……はぁ」
その瞬間、菊地さんが『ぷはっ』と笑い出したのを立花さんは睨み付けながらも立ち上がり俺に寄り添うように隣に立った。
「行くぞ」
「は、い」
今のやり取りはよく分からないものの、久し振りに外に出れる。
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