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「分かったら、飯は食える時にいっぱい食え」
「はい。じ、じゃあ肉まんも頼んで良いでしょうか」
分かっては無かったけれど頷いて肉まんを指指すと、立花さんは後ろを振り返る。
が、菊地さんは仕事の電話らしくレジに籠を置くと外に出てコンビニの前で話し出した。
「……分かった。おい、その中身、全部だ」
「わ、分かってません。お金は大切にして下さい。二つ下さい」
「五つ」
「…………」
立花さんの事を分かろうとしても、この人は自分を変える気はないし俺を分かろうとしていないんですけど……。
「すみません、肉まんあと五分ほどかかります」
「社長、寝惚けた御老十から電話ですよ」
立花さんはどちらに舌打ちをしたのか分からなかったけれど、俺を見た。
「肉まんの前から動くなよ」
「はい」
そんな会社の目と鼻の先だし、菊地さんも立花さんもコンビニの外にいるのにどうやって逃げるって言うんだよ。
俺が信用0なのか、立花さんが自分に自信がないのか。
五つも用意されてしまう肉まんの前で考える。
「……愛沢さん?」
名前を呼ばれて振り返ると、右腕を首から三角巾で吊るした大柄の人の良さそうな人が笑っている。
「あ、交番の警察官さん!」
「あー。良かった。私服だから気づかれないかと思った。それに君も無事みたいで良かった」
爽やかに笑うと、少しほうれい線が深くなる。
短くスッキリ刈られた黒髪に垂れ目がちで優しそうな顔。警察官なのに、怖くなくて俺もちょくちょく挨拶していたし、
何回もストーカー事件でお世話になった警察官の方にまさかこんな場所で再会できるなんて。
「君の家のボヤや店の火災も……何故か事件として被害届も出されず揉み消されたみたいだから心配していたんだよ」
「被害届が出ていない?」
「ああ。それに君があの日、立花社長に連れていかれてから消息が分からなかったしね。でも良かったよ。元気そうで」
――元気そう。
そう言われてしまったら複雑だ。
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