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「菊池」
立花さんが顎で菊池さんに指示をした瞬間、藤宮さんは懐に手を忍ばせた。
「菊池さん!」
俺が叫ぶと同時に、パァンと何かが弾けたような鼓膜を揺るがす音がする。
耳鳴りがして、思わず片目を瞑ってしまったけれど、立花さんと菊池さんは藤宮さんから視線をそらさなかった。
火薬の臭いと煙が藤宮さんを取り巻いている。
「来たら、――足を撃つよ」
ニタニタと笑う藤宮さんに言葉を失う。いつも通りの爽やかな笑顔なのに、何故ニタニタと不気味に見えるのか。
何故いつも通りのんびりとした様子なんだろう。
「可哀想な僕の榛葉。健気に慎ましく生きても報われない哀れな榛葉。フフ」
「榛葉、お前は俺の背中に隠れろ」
音を聞いて、立花さんのオフィスから強面の皆さま方が表れる。
コンビニの店員さんが奥に逃げ、肉マンが潰され――立花さんのボディーガードが近づく中、藤宮さんはまだ笑って拳銃の引き金に指を添えていた。
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