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「王子の剣はいつもの場所に用意しとくから、菊池、お前だけで取りに来い」
「畏まりました」
「で? 報酬は?」
すんなりと渡すとは思わなかったが、きっと何か金銭を要求したいのだろう。
「あの山の奥の屋敷の土地から建物から全ての所有権を貰おうかな」
「――ゆかりさんが隠居されていたあの屋敷ですか?
」
榛葉もあの場所でババアの髪を切っていた。
俺はあの場所に魅力も未練も何もないが。
「あの屋敷の所有権は、遺言で全て菊池になっている。他のにしろ」
「じゃあこの話は無かった事にする」
穏やかに佐之助が言うが、どうやら本気であの屋敷を狙っていたらしい。
あの山とセットでもそんな価値はないのだが。
「良いですよ。じゃあ半分明日にでも手続きしますね。もう半分は受け取ってからにしますが」
菊池はあっけらかんと簡単に手放せれるのか、そう細い目で表情をにこやかに隠して言う。
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