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菊池のあっさりした態度は些か嘘臭かったが、それは向こうも同じだった。 向こうはもう少し菊池の表情で遊びたかったらしい。 「交渉成立って事で良いですよね」 「帰るぞ、菊池」 「え??。お茶の1つも出されていないのに、ですか?」 菊池は不満たらたらだったが、俺はもう一ミリもコイツらと一緒に居たくない。 それに榛葉を緑に預けている。 早く帰って――嫌がっても泣いても、今日の恐怖をわすれさせるぐらい榛葉を抱く。 全て忘れさせてやる。 「酒ぐらい飲んでいけばいいだろう」 「そうですよね?」 「菊池」 緊張感を台無しにする――わざとらしいおどけた口調が本当に耳障りだ。 「兄さんなら高級な酒を用意してくれるのになぁ」 まだふざけたことを言うか。 こいつが、廊下を歩く俺達に拳銃の引き金を弾くのを躊躇しないと分かっているだろうに。

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