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リューさんが立花さんに何か怒鳴ろうとして菊池さんが口元を押さえた。
相変わらず――この人は怖くて酷い人だ。
「や――優しくして下さいって俺、言いました」
折角、分かりあいたいと伸ばした俺の手をこの人はまた、俺の手を振り解くのだろうか。
それでも俺は、この人を分かろうと努力する勇気も根気もない。
舌打ちをした立花さんが、靴を履くのを止めて俺の手を掴むと、菊池さんに目配せをした。
「お前が寝るまでなら、傍に居てやる」
「……俺は子供ですか」
寝室に連れて行かれて、少しだけ身体が竦んだけれど、強引にベットに突き飛ばされた。
そのまま、有無も言わさずに上から布団を掛けられる。
立花さんはベットサイドに足を組んで座り、俺を見下ろすだけだ。
「怖がり」
嘲笑う、人を馬鹿にした表情で、俺の傍にこの人は居る。
俺はこれからもこの人の短い言葉の意味を理解しなきゃいけないのかな。
「貴方が怖いから、――貴方が引きずり込んだ世界も怖いのかもしれない」
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