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第136話
「俺は、お前の身体を隅々まで見ている。汚い部分なんて無いだろ」
「く、口で、今、俺、」
肩を大きく震わせながら、榛葉は口を何度も何度も手の甲に押し付けた。
「口で噛んで逃げて来たんです」
「……?」
「く、口で奉仕しろって言われて、噛んで逃げて来たんです! だから、口、汚いんですってば」
とうとう、ブワッと涙を溢れださせた榛葉は、思い出したのか後ろを振り返った。
長い廊下の向こうで、佐之助が黒服の男たちを引きつれてこっちに向かってきている。
が、俺の唇からは思わず笑いが零れ落ちる。
「聞いたか、菊池」
「おじいさんでもお盛んだった佐之助さんが、不能になったら可哀想ですね」
憐れんだ言葉を言った後、菊池はぶはっと笑いだした。
「た、ちばなさん?」
「ああ、すまん。面白かったのでつい、な。あいつはどんな雄叫びをあげたんだ」
頬にかかった髪を払いながら尋ねると、榛葉は視線を逸らした。
だが、髪を払った頬が赤く腫れているのが分かり、笑いが一気に消えていく。
「打たれたのか」
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