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第138話
Side:愛沢榛葉
「ほう。この状況でもその偉そうな態度は改めないと言うのか」
怖かった。
もう、もう二度と立花さんにさえ会えないと何度も諦めそうになった。
自分の愚かさに死にたくなった。
でも、貴方が俺をあの火事の日に連れ去って、俺の日常は既に壊れていたのに、俺はなんでそんな壊れた日常に戻りたいと思ったのか。
佐之助さんの、アレを口で奉仕しろと言われた時、今しかないと思った。
従順に従って、逃げ出そうって。
口に広がる青臭い味に吐き気が込み上げてきたけれど、思いっきり噛んだ。
千切ってしまえばいいって、俺は酷い事を考えながら。
佐之助さんは俺の頬を打ち、股間を押さえて誰かを呼んだので慌てて逃げ出した。
今の隙に逃げてしまおうって。
そうしたら、立花さんが居たんだ。
俺をもう二度と離さないって、馬鹿な俺を力強く抱きしめてくれた。
なのに。
「ほう。この状況でもその偉そうな態度は改めないと言うのか」
佐之助さんは、俺を庇う立花さんに銃口を向けた。
「や、やめてください! 俺、俺、本当にゆかりさんの財産なんて要りませんし、俺が居るせいで二人が争うなら俺、俺、どっか遠くへ行きます。関わらない様にひっそりと生きていきますから!」
「俺は、お前を二度と離さないと言ったろ。逃げることは許さない」
「くくっ。ゆかり姉さんは死ぬ前、大分痴呆が進んでいたらしいが、お前はそいつを花嫁にするという約束を守るのか。綺麗でもそいつは男だぞ。動画を送っただろう」
「っ」
立花さんに見られたのか。
自分が悪いからしょうがないと諦めがつくけれど、でも、あんなものを見せてしまって申し訳が無い。
恥ずかしくて目をぎゅっと閉じた瞬間、頭がぐらぐらと揺れた。
――あの睡眠薬の効き目がようやく今、この最悪の状況で始まろうとしているらしい。
必死で唇を噛みしめて耐えるけれど、状況はあまり良くない。
「お前こそ、榛葉にも俺にも関係ない。二度と関わらないと誓え」
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