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第152話
「立花さんっ」
名前を呼ぶだけで俺は何も出来ない無力な――確かに誰かに助けてもらってばかりの駄目な奴だけど。
「お願い。俺――あの家に帰りたいです。立花さんと」
帰りたいです。
必死で首にしがみ付きながら、何度も何度もそう言う。
藤宮さんに、あの拳銃を渡す時、俺が銃弾を全て抜いておいた。
だから、本当に藤宮さんの銃には銃弾には入っていない。
だったら、もういい。
もう、こんな悪夢のような時間から早くあの家へ戻りたい。
立花さんは舌打ちすると、藤宮さんの額を銃の先で叩きつけると、壁に頭を打ちつけさせ気絶させた。
「菊池」
「はい」
立花さんは、佐之助さんや藤宮さんを一瞥すると静かにそのまま踵を返し、で口へと歩き出した。
「ごめんなさい。立花さん」
「本当に、絶対に二度とお前をこの腕の中から離さない」
「立花社長、左足、撃たれているんでうから榛葉さん、降ろしたらどうですか?」
「っ」
足元を見ると、左足は既に太ももから下が真っ赤に染まっている。
血は靴の中で溜まっているのか、重たそうだ。
「この馬鹿は俺が目を離すと逃げていく。降ろすものか」
「立花さんっ」
菊池さんは、それ以上止めようともしなかった。
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