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第154話

「榛葉」 微かな、ほとんど空気みたいな小さな声で立花さんが喋った。 「どこにも……行くなよ」 不安で、押しつぶされてしまいそうな俺に気づいたのだろうか。 立花さんはそう言うと、意識を手放してしまった。 何処にも。 何処にも行けない様に支配したのは貴方なのに。 何処にも行けない。 心の出来た穴は、貴方が撃たれた脚の銃弾の痕だ。 俺の心に開けて、俺を支配する。 こんなに切なくて――こんなに辛くて消えてしまいそうになる俺の存在を、それでも貴方は欲しいと言ってくれるなら。 俺はもう雑音にいちいち怯えなない。 貴方だけを――信じる。 嘘だと思っていた優しい言葉を、俺はいつも誰かかに強請っていたのかもしれない。 でも貴方は、優しい嘘も付けない人だから。 貴方ならば。

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