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第157話

榛葉が――俺の前で俺に向かって笑っている。 俺を、見て笑っている・ 「いや、違うんですよね。立花さんは俺に優しくしようとしてくれてたんです。あの大量の夜ご飯とか、部屋に軟禁とか、本当は優しくしようとしてたのに、俺が恐怖から目隠しして貴方から全力で逃げていたから」 榛葉が恐る恐る手を伸ばして優しく触れたのは俺の足だった。 「俺が弱くて、俺が誰かを嫌いたくなくて馬鹿な行動をしたせいで、本当に迷惑をかけてしまいました」 俺の足を痛々しく見つめる榛葉の目に涙が浮かんだ。 俺の為に涙を浮かべてくれている。 胸の動悸が激しくなるとともに、嬉しくて体温が上がっいくのを感じる。 「お前は、騙されやすい馬鹿だ。利用されてもへらへら笑っているような馬鹿だ」 「……否定できません」 「でも、利用して生きる俺よりもお前は綺麗だ」 例え、病室でカーテンから淡い光が射し込み、その光の中、コンビニのおにぎりを持って座っているような間抜けな姿でも。

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