171 / 348
第171話
『婆さんから預かっていたお前宛の通帳だ』
二日間入院して、マンションに戻った夜、ベットに先になるか、今からどうなるか、ドキドキしていた俺とは違い、立花さんがテーブルに置いた通帳。
中を確認しろと言われて見たら――今まで見たことが無い様な大金が入っていた。
『それで新しく店を持てるだろ。土地なら貸してやるぞ』
『無理です! こんな大金頂けません。俺、――』
『俺に言うな。俺はお前にそう言うように頼まれていた。もうお前にこれが渡っても文句を言うような馬鹿な親族は居ない』
『……』
恐る恐るもう一度通帳を開いたら、やはり身に余る大金すぎてすぐに閉じた。
信じられない。腰が抜けた。
立花さんはそれ以上、何も言わないし聞いてこなかった。
美容師に戻るという選択肢が頭になかったわけじゃない。ただ俺はシザーケースを取り出して手入れしてみようか触れたら――。
剃刀を見て手が震えてしまったんだ。
ともだちにシェアしよう!