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第175話

「榛葉」 「ご、めんなさい。ちょっとびっくりしちゃいました」 へらりと力なく笑うと、榛葉は掴んだ手を見つめて、真っ赤になった。 「だ、大丈夫なんで、離して」 「火傷はしてないんだな?」 「はい。あ、コップ」 「割れてませんよー」 こんな、ボーっとした抜けている奴だ。 今回の事は絶対に耳に入れないようにしないと。 怖がりで、臆病で、人と話すのが好きで――寂しがりやで。 手が掛る。 時々、夜中に魘されている。 よほど、藤宮に連れ去られたあの日が怖かったのだと分かる。 一夜だけでは払拭できないならば、毎日疲れて魘されないぐらい抱いてもいい。 だが、優しくしたい。 もっと、榛葉が感じて身を捩って懇願するような甘い抱き方をしてやりたいと思う。 だから、抱き壊さないように我慢しているのだが、 その夜は、榛葉から誘ってきた。

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