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第189話

「榛葉」 「は、はい」 「首は大丈夫か? 怪我は?」 「大丈夫です」 心配すると嬉しそうに頬を染めるのだが、この表情は堪らなく愛らしい。 基本的に騙されやすい榛葉は、優しくされると簡単に尻尾を降ってしまう傾向なんだろう。 「見せてみろ」 「はい」 ぎゅっと目を閉じて上を向く榛葉の、首筋を撫でる。 怪我をする程度ではない。本堂に一瞬、びりっとするだけなのだろう。 では、隠し事は首輪ではなく――風呂の方だ。 「ああ、なるほど」 あの事件からもう日にちは結構経っている。 昨日、肌を触れ合った時に確かに一瞬だけその違和感を感じた。 「一緒に入るか、風呂」 「えええ」 焦る榛葉は、恥ずかしいからではなく真っ青になっている。 面白い。困って慌てふためく榛葉は――面白い。 その裏の裏の気持ちには、俺はまだ気づけないが、焦る理由だけは分かりついつい鼻で笑ってしまう。 もう止まらない。

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