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第192話

「我慢して下さい」 「生えるまで我慢はしないが、――」 じろりと愉快そうに見る立花さんの――この時ばかりは気持ちが手に取るように分かった。けRど、それだけは駄目だ。 「もう剃りません! 絶対剃りません! 生やすんです!」 「暗いところでは無くても分からん。俺しか見ないのに何を恥ずかしがる」 「い、意地悪だ! 立花さんのも剃りますよ! 同じ苦しみを味わうと分かります!」 「へえ。お前が剃るのか、俺を」 「……」 怖く出来るわけないのを分かってて、この人はニヤニヤしてる。本当にズルイ。 それに、今、――剃刀を見せられたら俺、発狂してしまうかもしれないから、駄目だ。 「今日は、眠れそうか?」 俺が黙ったことで、それ以上は言うのを飽きたのか止めてくれたのか、代わりに頭を撫でてくれた。 「わ、わかりません」 「そうか。早めに仕事を終わらせる」 その言葉通り、立花さんが俺を風呂場へ押し込むとすぐに寝室へ入って行った。 ……おかしい。 気のせいじゃなければ、立花さんが最近優しい。

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