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第219話
暗い夜に、沈んでいくような不安が常に付きまとっていた。
立花さんに火事の夜、連れ去られてからずっと夜が俺を支配していた。
数センチしか張られていない水に浸って身動きが取れなくて、溺れてしまいそうなほどその水の中に沈んでいく。
右も左も分からず、誰も頼れず、立花さんは酷いことを強いる恐怖の対象だった。
でも、いつからだろうか。
夜だと思っていたのは、俺が自ら逃げ込んだ大きくて分厚い布で、時折光が垣間見えていて、俺はその光も立花さんがくれる俺への思いだと気づき始めた。
数センチの水なんて、立ち上がれば溺れるはずもないのだと。
少しずつ貴方の、心が見えて来たんです。
「んっ」
朝起きると、俺はソファに寝かされていて、ぼんやりした瞳で目の前を見ると、
不器用な仕草でベットのシーツを変えている立花さんの背中を見た。
俺はその背中が愛しくてもう、止まらなかった。
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