219 / 348

第219話

暗い夜に、沈んでいくような不安が常に付きまとっていた。 立花さんに火事の夜、連れ去られてからずっと夜が俺を支配していた。 数センチしか張られていない水に浸って身動きが取れなくて、溺れてしまいそうなほどその水の中に沈んでいく。 右も左も分からず、誰も頼れず、立花さんは酷いことを強いる恐怖の対象だった。 でも、いつからだろうか。 夜だと思っていたのは、俺が自ら逃げ込んだ大きくて分厚い布で、時折光が垣間見えていて、俺はその光も立花さんがくれる俺への思いだと気づき始めた。 数センチの水なんて、立ち上がれば溺れるはずもないのだと。 少しずつ貴方の、心が見えて来たんです。 「んっ」 朝起きると、俺はソファに寝かされていて、ぼんやりした瞳で目の前を見ると、 不器用な仕草でベットのシーツを変えている立花さんの背中を見た。 俺はその背中が愛しくてもう、止まらなかった。

ともだちにシェアしよう!