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第232話

『榛葉さんへ 貴方がこの手紙を読んでいるということは、あの子と無事に会えて、緑さんに会えたということですね。 そちらは今、季節は何でしょうか? 風鈴の風が美しく空を渡る夏かしら? 黄や赤に色づく紅葉が絨毯を作る秋かしら。それとも――白く吐く息が冷たい夜を包み込む冬? 貴方と季節を感じながらおしゃべりをするのが本当に好きだった。 私に母性を思い出させてくれた貴方に、感謝をしてもしきれない。 病室の中では、温かな貴方の笑顔が届かないけれど、これを貴方に聞いて欲しかった。 私の血の繋がらない義理の息子の話を』 さらさらと流れるような美しい文字はそこで一枚目を終えていた。 二枚目、三枚目と字の美しさは変わらないのに、紙の種類が違っていた。 もしかして何回も何回も書き直したのかもしれない。 『私は身体が弱く、昔患った婦人系の病気のせいで子供を望めなくて、恋人と別れモデルとして生きていこうとしていた。その時に事務所の寒田社長から今の、旦那さまを紹介してもらい熱烈に求婚されて結婚した。彼は私が子を望めなくても関係ないのだと言ってくれたから。』

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