232 / 348
第232話
『榛葉さんへ
貴方がこの手紙を読んでいるということは、あの子と無事に会えて、緑さんに会えたということですね。
そちらは今、季節は何でしょうか? 風鈴の風が美しく空を渡る夏かしら?
黄や赤に色づく紅葉が絨毯を作る秋かしら。それとも――白く吐く息が冷たい夜を包み込む冬?
貴方と季節を感じながらおしゃべりをするのが本当に好きだった。
私に母性を思い出させてくれた貴方に、感謝をしてもしきれない。
病室の中では、温かな貴方の笑顔が届かないけれど、これを貴方に聞いて欲しかった。
私の血の繋がらない義理の息子の話を』
さらさらと流れるような美しい文字はそこで一枚目を終えていた。
二枚目、三枚目と字の美しさは変わらないのに、紙の種類が違っていた。
もしかして何回も何回も書き直したのかもしれない。
『私は身体が弱く、昔患った婦人系の病気のせいで子供を望めなくて、恋人と別れモデルとして生きていこうとしていた。その時に事務所の寒田社長から今の、旦那さまを紹介してもらい熱烈に求婚されて結婚した。彼は私が子を望めなくても関係ないのだと言ってくれたから。』
ともだちにシェアしよう!