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第238話

Side:立花優征 手にホールケーキを持って帰路に着くことがこんなにも緊張するとは思わなかった。 様子を見に行った緑が言うには――榛葉が部屋から出て来ようとしないらしい。 自室ではなく俺の部屋のベットの上で泣いていると。 アイツは話を盛ることが多いから信用できないが、菊池にホールケーキを持たされた。 昔――本当に昔。 菊池に誕生日を祝って貰ったことなどないと吐き捨てたことがある。 中学まではほぼ家に帰らない母親らしき人物がいたような気がするが、誕生日など俺は自分のは知らない。 戸籍標本を見て知ったぐらいだ。 そう言ったせいで、菊池が冷蔵庫にケーキをたまに置く。 仕事の休憩中に出されるそれは、甘い物体であまり好きでは無かった。 それを買って榛葉のご機嫌を伺うのは何も解決にならないんじゃないのか。 アイツが――あいつがしっかりしないと俺は。 インターホンを押そうか迷ったが、止めてそのまま入ると、寝室の扉が開いた。 「……おかえりなさい」

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