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第239話

泣き腫らした目で、ひょこっと顔を出した榛葉は――俺が今朝吐いた暴言のせいだろうか。 それなのに、おかえりとわざわざ出迎えてくれたのが――複雑な気分だった。 「菊池からだ」 「え、ケーキ?」 箱を渡すと、榛葉の腫れた目が見開く。 「苺のケーキかな」 微笑んだ赤い目が痛々しい。 「榛葉、――その」 自分が口籠るなんて初めてじゃないだろうか。 その目に、言葉を掛けたいのに浮かんでこない。 「今朝は置いていってしまったが、飯は」 「あっ」 榛葉が顔色を変えてリビングの方へ走って行くと、冷蔵庫の開閉の音がした。 大方、用意されたが食べずに放置していたのを、今冷蔵庫へ隠したのだろう。 そういう所は浅量だといつも思う。 「食べてなかったのか」 「……気持ちがいっぱいで、その」 冷蔵庫に自分の残したモノを入れた為にケーキが入らないらしい。 慌てて冷蔵庫の回りをウロウロする榛葉に、ネクタイを緩めながらテーブルを指で叩く。 「今、食べれば良いだろう。腹が減った」

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