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第241話

「榛葉?」 「だ、駄目ですか?」 振り返らないが、真っ赤な顔でそう言うと、震える手でケーキに包丁を向ける。 泣き腫らした眼を見なくて済むのは正直ホッとした。 代わりに震える手を支えてケーキを一緒に切った。 「別にお前なら構わない」 「あ、りがとうございます」 真っ赤になりながらケーキを切ると、そのまま皿に移して残りを冷蔵庫に仕舞う。 そして仕舞い終わると、俺の方をちらりと見てまた膝の上に座った。 俺の膝にちょこんと遠慮がちに座るのでそのまま腕を回し深く座らせた。 「――次は」 「あ、あーんしてください」 今朝傷つけたのならばと、俺は口を開く。 はっきり言えば甘いモノは好ましくはないのだが、榛葉ならば受け入れようと。 横向きに座らせると、真っ赤な榛葉が目をぎゅっと閉じて俺にケーキを差し出してきた。 「そんな閉じたら俺の口が分からないんじゃないのか」

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