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第264話
添える野菜をお皿に盛りつけていると、玄関から鍵が開く音が聞こえた。
エプロンで手を拭きながら急いで迎えに行くと、俺の顔を見た後、立花さんの目元が優しくなった気がする。
「おかえりなさい」
「――ああ」
「今日は、菊池さんが買って下さったステーキです。今、焼いてますから着替えて来て下さいね」
「ああ」
口ごもった後、俺がキッチンに戻るとき、小さく『ただいま』と言ってくれたのは嬉しかった。
どうせなら――目を見て言って欲しかったな。
「疲れたな」
独り言を言う立花さんを、こっそり振り向いて伺う。
気だるげにネクタイを緩めるその姿が――言いようもない色香を纏っていて、頬を染めてしまった俺はすぐに前を向いてキッチンへ向かった。
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