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第276話
ゆかりさんのお屋敷には、庭に沢山の季節の花が咲き乱れていた。
今は、コスモスが風に揺られているし、壁に伸びた蔓が小さな彼女の世界を隠してしまっている。それに、扉まで続く道のりには、薔薇のゲート。
庭には、5人ぐらいの庭師がせっせとトピアリーを作ったり、冬に向けてライトアップしたりしている。
こんな山奥で、誰も見に来ないのが勿体ないぐらい綺麗な庭。
「榛葉君」
「寒田さん」
先輩に乗せてもらった車から降りると、寒田さんも車から降りて俺に駆け寄って来てくれた。
「愛沢君、大丈夫? もう私行くけど」
先輩介護士は、その屋敷と庭に圧倒されながらな恐る恐る言う。
俺も笑顔で頷いた。
「ありがとうございます。後は大丈夫です」
寒田さんと合流できたのならもう安心だ。
菊池さんも立花さんに伝えて仕事を片付けてから来ると言っていた。
「君は――佐之助さんなんかに近づいても良いことがないって学習しなさい」
「でも、余命少ない佐之助さんが、この屋敷で眠りたいって聞いて、どうしても此処に来たかったんです。此処は、俺とゆかりさんが出会った場所で、――立花さんとの全ての始まりだから」
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