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第279話
「榛葉君、佐之助さんに何をされたのか――忘れたわけではありませんよね?」
「それは勿論です。でも、じゃあせめてその警察へ連絡とか」
榛葉の言葉に、寒田が呆れながらも携帯を取り出した時だ。
榛葉たちの後ろで車が荒々しく止まる。
ドリフトのように大きく車の車体が動きながら止まるのを、振り返る。
それはスローモーションのように、視覚に突き刺さる映像だった。
乱暴に車のドアを閉め、長い足で此方に向かってくるのは、
不機嫌そうな立花さん。
い、一年ぶりの立花さんだった。
「お前は馬鹿か。一年で何を学んできた」
明らかに苛々している立花さんこそ――皆が絶賛している変わりようが伺えない。
でも、いや、久しぶりだからかな。
切れ長の冷たいのに色っぽい目とか、不機嫌そうに歪む眉毛とか、煙草を持つ長い指先とか。
見てるだけで胸がドキドキしちゃうんだけど。
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