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第281話
その瞬間、菊池さんが一目散に走り出した。
側近を突き飛ばし、階段を駆け上がって行く。
「菊池さん」
「待て。待ってろ」
立花さんに腕を掴まれ、俺が二階へ上がって行くことは阻まれた。
「どうして!」
「お前は弱ってるところを嫌いな奴に見せたいか?」
「……」
立花さんの言葉に思わず駆けだしそうになっていた足を止める。
「なんだ、その顔は」
「や、――立花さんがまともな事を」
「は?」
「い、いえ、違うんですよ! 立花さん、口数が少ない人だった印象が強かったから、――だから」
一年ぶりなんだって、改めて、ううん。漸く実感できた。
「うううんっ」
寒田さんに咳払いされなかったら、抱きついていたかもしれない。
「ちょっと、そこのバカップル退いて下さいねー」
「菊池さん!」
階段から降りて来たのは、佐之助さんをお姫様抱っこした菊池だった。
「このお馬鹿、病院に連れて行きますねー」
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