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第282話
佐之助さんは――骨と皮のガリガリな姿になっていたけれど、相変わらず目だけは人を威圧するのには十分だった。
「社長、車借ります。寒田さんのお車にでも持って帰って下さい」
「ふざけるな」
「ゆかり姐さん・・・・・・」
菊池さんと立花さんが言い争う中、佐之助さんは俺を見ると、抱っこされているのも気にもせず身を乗り出し、俺に触れようと手を伸ばしてきた。
「ゆかり、姐さん」
「俺が??」
ゆかりさんみたいな綺麗な人に間違えられるのは複雑だったけれど、俺は優しく笑った。
「早く良くなって帰って来て下さいね」
そう笑うと、佐之助さんは満足したように目を閉じた。
「あんなに具合悪かったんですね」
寒田さんも言葉を失っている。
「ふん。あいつの行いを思えば、ボケて、死んだ人間の影を探す憐れなぐらいがお似合いだ。先も長くないだろう」
「貴方は榛葉くんから嫌いすぎです」
寒田さんが、立花さんの辛辣な言葉に呆れる中、俺は菊池さんを見ていた。
「おい、榛葉」
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