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第289話
榛葉が、全然予想していなかったというような顔で戸惑うのが分かる。
「もう、いいだろう」
だが、もう俺の方が限界なんだよ。
気づけよ、この馬鹿。
「もう帰って来て良いだろう」
これ以上、離れる必要もない。
「お前を今日は迎えに行く予定だった」
もう、いい。
もう、お前は俺なんかの狂気に怯える様な奴ではないはずだ。
「一つだけ。一つだけお願いを聞いてくれますか?」
榛葉は神妙な顔で、俯いた後、顔を上げた。
「俺、どうしてもこれだけはやり遂げたい。そうじゃなきゃ、貴方の隣に帰らない」
真っ直ぐに俺を見て、意見する。
泣きながら懇願するあの日のお前では無い。
「分かった。言え」
俺がそう言うと、榛葉は頷き、耳元まで背伸びした。
それは、始まり。
ソレがきっかけで芽生えた縁だった。
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