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第290話

Side:愛沢 榛葉 俺は誰かに認めて貰いたいとか、人に嫌われてくないとか、いつも周りに怯えて、彼の言動にびくびくしながら、自分を隠して生きていた気がする。 でも、変わることばかり考えて焦っていたけれど、俺は自分の性格を嫌っているままで、好きになろうって努力はしなかった。 今、これを着て少しでも自分と向き合えたならば――貴方の隣で堂々と笑える気がするんだ。 一年かけて学んで、まだ完ぺきとは言わないけれど、着れるようになった着物。 俺は、――勇気を持ってその色打掛に腕を通した。 部屋の外で、待っている立花さんの傍へ行き、俺は強請る。 「紅をひいてくれませんか」 「――やりかたが分からん」 ムスっとしながらも、立花さんは俺を見る。 そして目を見開き息を飲むのが分かった。 ゆかりさんの色打掛は、白すぎる俺の肌には似合っているのかもしれない。鮮やかな赤、今にも飛び出してきそうな躍動感のある飾り絵。 それをとっても俺には勿体ないぐらい素敵な打掛だった。 「じゃあ、立花さんには紅を落とすのをお願いしようかな」

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