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第293話
「眠ってしまっていますか?」
屋敷に到着し、佐之助さんの寝室へ向かうと、菊池さんが手招きした。
「もうこのまま起きないと困るから、さっさと入っちゃって。まあ、綺麗な花嫁だこと」
俺の色打掛姿を見て、何度も何度も菊池さんは頷く。
「佐之助ッて、ゆかりさんは呼んでいましたよ」
耳元で囁かれ、俺は神妙に頷いた。
満月の淡い光が差し込む中、暴君の肩を揺する。
「佐之助、――佐之助、起きて」
音も無く、佐之助さんの瞳が震え目を開けた。
佐之助さんは、俺の顔を見た後表情を破綻させる。
「ゆかり姐さん」
「今日は貴方に言っておきたいことがあってね、来たんですよ。具合はどうですか?」
「姐さん、俺もアンタに言いたいことがある。聞いてくれねえか」
弱った身体を起こすと、俺の顔に手を伸ばす。
「兄さんのことだ」
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