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第300話
それは、確かに分かりにくい。
素直では無い立花さんの優しさだった。
菊池さんは笑いを堪えるかのような咳をした後、あの屋敷に残った。
あの屋敷で、佐之助さんを最期まで看取るのだろう。
嫌な事を言われたり、酷いことをされたり、この人がいなければ俺はもっと別の人生を歩めたのかと猛けれど、でも佐之助さんを恨んだろはしない。
ゆかりさんと出会えた時間も、後悔はしない。
あの人は、俺と立花さんのそれぞれ欠けているモノを、補えるパートナーだと引き寄せてくれたのだから。
「邪魔者は消えたな。これでお前を助けてくれる人間は減ったぞ」
「菊池さんは俺を貴方から助けてくれたことは――ありませんよ」
「緑もリューもいない」
車に俺を押しこんだ立花さんは、隣に乗り込んで来た。
・・・・・・運転席に座らなきゃ、誰が運転するんですか。
「助けなんて呼びませんって。立花さんは俺に酷いこと、しないでしょ?」
クスクスと笑うと、両手を強引に掴まれた。
「だが、俺はもう自分を止められる自信はない」
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