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第302話
それは、空から落ちてきそうな大きな満月の夜だった。
ソレが俺達の始まりだったと思う。
あの夜を、俺は悪夢だと思っていた。
全て、全て終わったって。
歩道橋から飛びおりようとさえ思っていた。
それが今は、始まりの日で。
こうやって貴方と肩を並べて、隣で寄りそって歩いて行きたいと思う日々が来るとは思わなかった。
玄関の鍵を開けて、立花さんは振り返った。
躊躇いがちに、けれど、真っ直ぐに俺を見る。
「おかえり、榛葉」
素直ではなく不器用な貴方が、こんなことを言うとは思わなかった。
ほっこりと俺の胸を温かくしてくれるなんて。
「ただいま、立花さん」
玄関を締めたとたん、その音が重く大きく響いた。
立花さんは俺を抱きしめると、そのままお姫様抱っこで抱えて廊下を歩いて行く。
大きな、――大きな満月が落ちそうな夜。
「お前を俺の花嫁にする」
今度はその言葉からやり直そう。
あの時の後悔を全て、忘れて新しい時間を刻むために。
「お願いします」
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