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第8話
とはいえ、俺だってクリクリカールの金髪緑眼の男の子の姿から唐突に男子高校生として通っていた本来の姿へと戻った事に対して困惑しなかった訳じゃない。
(な、何なんだよ……急に見覚えのない可愛い男の子の姿に変わったかと思ったら元の俺の姿に戻ったり……意味が分からない……そもそも、俺を殺した当の猫山や……赤城くん達は何処に……っ……)
頭の中がはてなマークで埋め尽くされてしまい、どうしていいのか分からなくなった頃―――ようやく、後にこの意味不明な現象を解明してくれるキッカケとなりうる人物の足音が少し遠くの方から聞こえてきた。
コン、コンコン……
「失礼します」
ノックを簡単に済ませてから、ガチャッ…………と部屋の扉を開けて中に入って来ようとする男の声を耳にして俺は懐かしさを感じた。それは、俺がこの意味不明な現象に見舞われてしまう前に散々耳にしてきた男―――【猫山】の渋いバリトンヴォイスだったのだ。
「ああ…………全員まだ此方にいらしたのですか―――他国の方々が皆様をお待ちです。ハイリア王子、ミズリア王子……ネムリア王子―――それと……っ……」
「ち、ちょっと待ってくれよ……猫山……お前……人を殺しておいて……その後の説明放棄ってふざけてるのか……まず、この意味不明な状況を説明してくれよ……この人達だって困惑しているじゃないか……」
しれっと、困惑しきって呆然としている俺を一瞥してから何事もなかったかのように淡々と落ち着き払って話し始める【猫山】の元へと駆け寄っていく。裸に近い状態だとか、そんな事が吹き飛んでしまうくらいに勢いよく【猫山】へと詰め寄ったせいでバランスを崩し―――奴の胸元に飛び込んでしまうような形になってしまったが、それでも奴は人形のように無表情な顔を崩さない。
「あ……いいえ、スーリア王子―――それについては他国間同士の舞踏会が終わってから説明致します。同様に、三人の王子様へも説明させていただきますので……まずは、こちらの世界でのあるべき姿へとお戻り下さいませ……スーリア様……あなたは、もう単なるニンゲンではなくなったのですから」
「な、何言って……んっ……んむっ……?」
兄だと名乗る三人の男達がいる前で、あろう事か堂々と俺の唇にキスをしてきた【猫山】―――。
意味不明な状況に陥っているというのに【猫山】からキスされた瞬間に全身がカアーッと熱く火照り、顔までも茹でダコのように真っ赤になってしまう俺―――。
まるで、初な少女が恋に落ちてしまったかのような反応をしてしまった俺の足は脱力感に襲われてしまうと、その
まま微かにニヤリと口元を綻ばせる【猫山】へと抱き止められてしまうのだった。
やっぱり―――【猫山】のバリトンヴォイスには、どうしても逆らえない。
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