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第11話
※ ※ ※
舞踏会場とやらに足を一方踏み入れた途端に―――俺は言葉を失ってしまった。辺り一面に流れる優雅なクラシック音楽(ミラージュとやらにも存在するのか)、その心地よい音色に合わせ、かつて過ごしていた世界では【アニメや漫画など娯楽の中でしか存在しないもの】とされていた様々な容姿をしている種族が互いに杖で(おそらく)魔法を掛け合いながら楽しげかつ優雅に空中で踊っているのだ。
「わ、わあ……っ……エルフに、リザードマン……それに吸血鬼や―――フェアリー……サキュバスまで……っ……す、すごい……」
「しい……っ……静かにしなよ、スーリア!!本当に、どうしちゃったんの―――こんなのここでは当たり前だよ……ねえ、ネムリア?」
「ネムリアは……ね、ねむい……」
はあ、と―――このミラージュという世界での俺【スーリア】の二番目の兄に当たるミズリアが呆れたように小さくため息を吐く。その行動は、むしろ俺ことスーリアの言動に対してというよりも―――むしろ三番目の兄に当たるネムリアの言動に対してのものだというのは何となく分かった。
「おや、おやおや……美少年達がため息を吐くなんて……なんと、なんともったいないんだ!!キミたち、ため息を吐くとシアワセが逃げるとテンセイシャかつダイイチキュウジンも言っているのをご存知ないのかね!?」
ふいに、舞踏会場に響き渡るくらいで甲高い男の大声(むろん聞き覚えのないもの)が耳に届くと面倒事が増えそうな嫌な予感を覚えつつ仕方がなくそちらへと目線を向ける。
(また……なんか変な奴が出て来たな……)
腰くらいまで垂れ流した銀色の長髪―――。
長い牙を剥き出しにしつつ口に咥えている一輪の薔薇―――。
全身紫色のスーツっぽいのを身に纏っているものの胸元をさらけ出し、かつていた世界で見たら変質者と言われ兼ねない際どい服装(流石にズボンはしっかりと履いてるが)―――。
ワインのように真っ赤に染まった瞳は吸い込まれそうな程に美しい―――。
その人物の周りを二つの耳(猫耳のような形状)がついていて、フワフワした黒くて毛玉っぽい生物が飛んでいる―――。
「うげ……っ……ブランシェ……君も来てたの?あれれ……招待してたっけ~?」
「ネムリア、眠い……ブラン……うるさい……」
「やかましい、失せろ……」
(ブランシェ……ブランシェ……つーのは……誰なんだよ……つーか、こいつらと知り合いっぽいじゃねえか……あ~、面倒くせえ……それもこれも―――きちんと説明しない猫山のせいだろ)
心の中で毒づきつつもブランシェという謎の存在へと愛想笑いを浮かべ誤魔化そうとしていた時―――、
「おお、おお……っ……なんという、なんという慈愛に満ちた麗しい子なんだ……スーリア!!キミは、やはり―――ワタシをぞんざいに扱わないのだね……キミのお兄さん達とは大違いだ……さあ、今すぐ向かおう……ワタシとキミの愛の巣へ……いざ、行かん!!」
「え、ええ……っ!?ちょ、ちょっと……い、意味が分からないんだけど……っ……あっ……!?」
グイッ…………
と、ブランシェなる謎の存在により腕を掴まれ―――思わず戸惑いながらその真っ赤に染まった瞳を真っ直ぐ凝視してしまった途端にぐる、ぐると強烈な眩暈に襲われてしまった俺はその場に倒れてしまうのだった。
段々と薄れゆく意識の中で―――
『大丈夫でございますか……スーリア様』
という、憎らしい程に大好きで堪らない懐かしい【猫山】の声を聞いたような気がする。
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