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第14話

※ ※ ※ 頭がガンガンする―――。 鼻がムズムズする―――。 ふっ…………と目を開けた時、俺を襲ってきたのは後頭部に感じる重い痛みと花粉症でもないのに感じる鼻のムズ痒さだった。俺は前の世界では【男子高校生】だったから経験した事はないのだけれど―――もしかしたら二日酔いもこんな感じなのだろうか、などと思いつつ目線だけ真横へと移した時の事だ。 朝からこんな体調不良に見舞われるなんて憂鬱だ、などという気分など一気に吹き飛んでしまうくらいに驚いてしまい言葉を出す余裕さえない。 すや、すやと寝息をたてつつ気持ち良さそうに眠っているのは―――【猫山】だ。驚いたのは、それだけではない。スースーする俺の体をがっちりと腕で抱き締めるようにして奴はスヤスヤと眠っていやがるのだ。 (待てよ、スースーする……だって―――) 妙に寒いと感じる理由が一瞬だけ、頭をよぎり―――それと同時に嫌な予感を抱いてしまった俺は半ば強引に未だに眠りこけてる【猫山】の体から離れると、そのままバサッと綿雲のようにフワッフワな白い布団を剥ぎとった。 ―――真っ裸だ。 それを自覚した途端、様々な【昨夜の記憶】が―――まるで万華鏡をぐる、ぐると回している時のように俺の頭を駆け巡る。ふっ、とある【夜の記憶】が思い浮かんでは消え―――思い浮かんでは再び消える。 まるで、【羞恥】という感情を自覚させるための拷問のように―――。 (そ、そうだ……っ……猫山の奴が―――ダイイチキュウからミラージュへ俺を連れて来た理由を教えてやるというからベッドに入って……あ、あんな卑猥な行為を受け入れてやったっていうのに……肝心なその理由を覚えてねえじゃねえか……っ……) 朝から後悔という取り返しのつかない憂鬱な気分に押し潰されそうになり、それと同時に後頭部を襲ってくる強烈な重苦しい痛みに耐えている。 「……い、おい……アリスガワ……」 背後から【猫山】のバリトンヴォイスで囁かれ、あまりの憂鬱さと目まぐるしく襲ってくる強烈な痛みに何とか頭を抱えながら耐えていてという、それこそ拷問のような行為のせいで億劫そうに振り返った瞬間―――、 「……ったく、何だっつーんだ……よ……っ……んっ……!?」 ふにっ…………と、かつての世界である【ダイイチキュウ】に存在していたマシュマロのように柔らかく暖かい唇が―――面倒臭そうに振り返って文句を言おうとしていた俺の唇を塞いでしまうのだった。 そして、そのまま―――俺は不適に笑う奴によって真っ白で雲のようにフワッフワなシーツの上に押し倒されてしまうのだ。 「おい、約束が……違うじゃねーか……っ……ベッドの中で俺をこのミラージュに連れて来た理由を教えてやるって言ったくせに―――このウソつき教師が……っ……!!」 「おはようございます……と、それさえも挨拶出来ないのですか?スーリア様―――私は貴方をそのように教育した覚えなどありませんよ?さて、お仕置きといきましょうか……そうですね、貴方はどうしても連れて来られた理由を知りたいようですから……このようなお仕置きなど如何でしょうか?」 今の俺の姿は―――スーリアではなく【有栖川】なのに、それを分かりきっている上で【猫山】の奴はわざと畏まったスーリア様用の態度で俺に接してくる。それさえも、俺にとってはお仕置きに等しい―――と目の前の意地悪で変人な教師は分かってすらいないのだ。 「い、意地悪……お、お前なんて―――大嫌いだ……っ……」 「ですから―――いいや、違うな__だから……これから理由を教えてやると言っているだろう?アリスガワ、キミは私を信用していないのか?」 「…………」 俺は、わざと答えずに【猫山】に対して背を向ける―――。 すると、パキンッ……と背後で何かが割れるみたいな変な音が聞こえた。その音は、どこかで聞いた事のある音だと気付いたため反射的に【猫山】の方へと向き直してしまう。 (この変な音―――猫山の奴が学校で俺の体を赤いチョークで突き刺す時に聞こえてきたのと同じ音だ……) 「……っ……ま、また―――俺の事を刺すのかっ……!?」 びく、びくと震えながら尋ねる俺―――。 トラウマ、という現象だろうか。今、【猫山】が手に持っている赤いチョークを見るだけでも体か小刻みに震えて目線がさ迷ってしまう。 「安心しろ……もう二度とキミの体は―――傷つけない。ただ、術師であるが故に――これを出さない訳にはいかないのだ。許してくれ、アリスガワ……」 「…………」 何と答えていいのか分からず、ただひたすら体を小刻みに震わしている小鹿のような俺を【猫山】は軽くとはいえ抱き締めてくれるのだった。

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