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第18話
「だ、誰だ……!?」
情けない事に声が震えていた____。
赤黒い炎を纏った少年の出現、そしてその少年の手で引き起こされた唯一の理解者である【猫山】の行方不明。そして、まさに今――またしても謎の存在が俺の戸惑う様を嘲笑うかのようにどこかで拍手している。
しかし、何度辺りを見回してみても__周りには俺とミラージュの王族の三兄弟、それに冷たい床でぐったりと横たわる元クラスメイトの兎耳山しかいない。
まるで小動物のように怯えながらキョロ、キョロと辺りを見回している俺の事を三兄弟は至極冷静な様子でジッと見つめていた。
「ネムリアは眠い___けど、ダイイチキュウから来たおにーさん……ううん、スーリアおにーさん……んーっ__どっちか分かんない……まあ、いいや……おにーさんには……見えてないの?」
「えっ…………?」
白いフカフカの枕を両腕で抱えながらミラージュの王子の一人であるスーリアと俺を混同して訳が分からないといわんばかりに怪訝そうな表情を浮かべながらネムリアがトコトコと此方へ歩み寄ってきた。その問いに、どう答えるべきか悩んだ俺は間抜けな声しか出せない。
「ネムリア……そいつはスーリアじゃない。スーリアは――いない。存在しない……何らかの形でスーリアの姿となっているだけの__偽物だ。ネムリア……もう、向こうへ行こう……俺が一緒に眠ってやる……」
「うん、ネムリアは眠い……」
三兄弟の長男、ハイリアが両腕に枕を抱えて眠そうにしているネムリアをギュウッと大事そうに抱き寄せると__そのまま、二人は今いる玉座の部屋から出て行こうと扉まで歩いていく。
「それじゃあ、おやすみなさい……おにーさん……それに……おとうさま……」
「ネムリア____余計な言葉を言うもんじゃない……もう、行くぞ……っ……」
扉から出ていく直前に、ハイリアから手を引かれて歩いていたネムリアは此方へと振り返ってニコッと微笑みながら【おやすみさいの挨拶】をしてくれたのだが、おそらく俺の存在を快く思っていないハイリアがジロリと此方を鋭い目付きで睨み付け__やがて、そのまま姿が見えなくなった。
あからさまに敵意を剥き出しにしてきたハイリアの態度も気になったものの、俺には他に気になる言葉があったのだ。
『おとうさま』
ミズリアは笑顔で此方へ手を振りながら、確かにそう口にしていた。
「おとうさま……って事は――ミラージュの王様って事ですよね……出てきてくれませんか?」
「まったく、せっかくダイイチキュウから来た君の反応を見ていたかったのに__本当にネムリアは空気が読めない子だ。ミズリアは、こんなにも空気の読める良い子だというのに……」
俺が僅かに緊張しながら尋ねてみると、その直後に今まで何も存在していなかった筈の空間から男性が姿を現した。なるほど、王様と呼ぶのに相応しいくらいに豪華絢爛な姿だ。
金色に煌めく王冠を被り、赤いマントを身に纏っている。外側にクルッとカールした金髪もいかにも王様だといわんばかりに目立っている。瞳の色は澄んだ空のような色でマジマジと見ていると吸い込まれそうになるくらい美しい。右手には銀色の杖を持っているが、それは先端に紫色の宝石がついている立派そうなものだ。ダイイチキュウの店で見掛けた【アメジスト】によく似ており、思わず視線を向けてしまう程に光り輝いている。
とにかく、俺はその『おとうさま』とネムリアから呼ばれた人物__いや、ミラージュの王という高貴な立場の人物を前にしてハッと我にかえると慌ててダイイチキュウでいうところのお辞儀をした。目上の立場の人物には、礼儀を示さなくてはならないのは__おそらくダイイチキュウもミラージュも同じだと判断したからだ。それは、先程から側にいて『おとうさま』とネムリアから呼ばれた人物に対するミズリアの態度から何となく察する事が出来る。そう判断したきっかけは、息子である筈のミズリアでさえも体を小刻みに震わせつつ、片膝をついて頭を垂れながら『おとうさま』と呼ばれた人物に対して明らかに緊張している様をあらわにしていたからだ。
すると____、
「嫌だなぁ__可愛らしい君にはそんな態度は似合わないと思うよ?そうだな__むしろ…………」
「う、うわっ…………な、何をするんですか……いきなりで__しかも初対面なのに……っ……!?」
ふわっ…………と体が浮いた。
そして、何故かその直後にはその『おとうさま』と呼ばれた王からギュッと抱き締められていて動揺を隠せずにひきつった表情を浮かべていた俺は呆気にとられつつ間抜けな声色で尋ねてしまう。
「えっと……ああ、そうか。うーん、それじゃあ、この姿なら__気付いてもらえるよね……名前負けのアリサちゃん?」
穏やかに微笑みながら、《かつてクラスメイトだった赤城くん》の姿に変化した王は愉快げに言ってくるのだった。
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