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春の嵐 5

何かが違うと気付いたのは女を抱いてる最中だった。 いつもなら欲望に任せてろくに女の顔なんか見ないで事を進め、女が喜ぶような言葉を適当に並べて欲を吐き出したら終わる。 なのに、今日は何かが違っていた…… 最中も何故か集中出来なかったし、今日は何故か欲を吐き出すまで時間がかかった。 何回か抱いてる女なのに何かがいつもと違う……けど、それが何なんなのか分からない。 「橘くん、今日いつもと違かったね」 「は?何が?」 事が終わったっと言うのに、しつこくオレの腰に腕を巻き付けながら裸体を擦り寄せてくる女が言った一言で、それを更に自覚させられる。 「なんか、心ここにあらずっていうか、私じゃない違う誰かとシてるみたいだった」 いや、いつも気持ちは入ってないしと喉のここまで出かかったのを飲み込む。 「別に……そんなことないだろ。」 この女が一応一番長くセフレ関係が続いてるからだろうか……時々、気持ちの浮き沈みを見破られる時がある。 疲れてるとか、気が立ってるとか……こうして終わった後に時々言われる。 でもそんなことを言われたのは今日が初めてで、オレは最初全く思い当たる節が見当たらなかった。 「誰か、好きな人でもできた?」 そして続けてそう切り出された時、ふと一瞬だけアイツの顔が思い浮かんだ。 は?なんでアイツ思い出したんだよ。 今、全く関係ないだろ。 自分で自分を真っ向から否定して、即座に否定を口にする。 「そんな奴いるわけないだろ」 オレが誰かを本気で好きになることなんて多分ない。 ましてや、人を好きになることがどういうことかなんて考えたこともないし、考えるだけ無駄だ。 「変なこと言ってないで身体離せよ、オレもう帰るから」 「もうちょっと一緒にいたい。ダメ?」 「ダメだよ、帰って寝る」 「そっか、じゃあ……また呼んでね」 「気が向いたらな」 結局、オレのこのモヤモヤの原因はわからずじまいで、そのあと違う女を抱いた時も同じ症状に見舞われた。

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