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春の嵐 7
「ゆうちゃんが遅刻なんて珍しいね」
「そうだな。でも急げば間に合ったんだよ。」
「そうなの?」
教室に着いた時は1時間目の授業の出席を取っている時だった。
案の定珍しがってダイが休憩時間になるとオレのとこにやってきた。
「ああ。でもちょっと面白いことに遭遇してさ……」
「面白いこと?ゆうちゃんがそんな嬉しそうな顔してるくらいだから相当面白いことに遭遇したんだね」
「え?……ああ、相当な」
オレがそんな嬉しそうな顔……?
無意識にそんな顔に出てたってことか。
「で、どんな面白いことに遭遇したの?」
「あーそれは内緒」
「内緒?!なにそれ、そんなに特別な出来事でもあったの?」
特別…………ねぇ……
ただの何気ない日常に、アイツが存在していくことが今のオレには特別なのか……
でも日常が鮮やかに彩られるように見え始めているのは否定できない。
相原 渚────
アイツの名前を知った時に不思議と直感が働いて、何故か思ったことがある……
どんな形であれ、この名前はオレにとって“ 特別”になる────と……
「別に言うほど特別なことじゃないから内緒。」
「はいはい、内緒ね」
ダイには適当にはぐらかしたつもりだけど、あの顔は何か勘づいているに違いない。
だけど、そのまま何も聞かずにいるあたりがダイらしいと言うかなんて言うか·····
「ほら、次は移動教室なんだから早く行くぞ」
これ以上話していたら余計なことまで言ってしまいそうだった。
だからできるだけ自然にそう促し、さり気なく俯いたオレは机の中から教科書を探し出すフリをして、ダイに気付かれないよう控え目に笑みを零した。
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