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第1―2話
井坂の話はこうだった。
井坂の大学の同期に天才と呼ばれるトレーダーがいる。
その男はベンチャー企業を興し社長をやっているが、それは表向きの顔。
裏では風俗王と呼ばれている。
芸能人や財界人しか行けないような超高級風俗店から超高級クラブ、プラス超高級ホストクラブまで経営していて大成功を収めている。
そんな男が今度健康ランドを建てた。
それもゲイ専門だ。
「まー簡単に言うと超高級ハッテン場だな」
ワインを飲みながら井坂がサラッと言う。
それに異を唱えたのは桐嶋だ。
「だけどな、天才トレーダーで風俗王と呼ばれている男が、何で今更ハッテン場なんて作るんだ?」
高野も羽鳥も木佐もウンウンと頷いている。
美濃だけは微笑みを微動だにしていない。
「賭けに負けたんだとよ」
「賭け?」
「ラスベガスでサシでポーカーだっけかな?やったんだと。
それで負けて金で精算しようとしたら『金はいらない。その代わりゲイ専門の健康ランドを建てろ』って言われたんだってさー。
まったくあいつはいくら負けたんだか…。
まあ賭けに勝った相手からしたら嫌がらせ…つか冗談であいつを追い詰めて、からかってやろうとしたんだと思うよ。
でもあいつもあいつでさー。
プライドたけーからやってやるよ!ってことになっちゃったワケ」
「そんな理由で建てちゃったんですか…」
羽鳥が虚ろな目をして呟く。
「でもさあ」
木佐が面倒くさそうに口を挟んだ。
「その超高級ハッテン場と俺達と何の関係があるんだよ?」
井坂が木佐を見てニヤニヤ笑い出す。
「おめーだってハッテン場くらい行ったことあんだろ」
「…うっ…」
「ハッテン場と言えば一番大事なものは何だ?」
「……風呂?」
「そーだ!
だからお前ら、風呂に入って来い!
あ、健康ランド内の施設も使い放題だからな!
メシも自信あるってよ。
それでリサーチした報告をしろ!
俺もこの話に一枚噛んでるんだ。
俺に損させんな!」
「リサーチ…ハッテン場のリサーチ…そんなことの為に…」
ため息をつき俯く高野の肩を、井坂が楽しげにポンポンと叩く。
「まあまあ高野、良く考えてみろ。
その日はお前達で貸し切りだ。
つまり何をしたって構わない。
お湯さえ汚さなけりゃな。
ま、汚したっていーんだけど、流石に他のヤツらが嫌だろ?
その為の準備も万端だってよ。
七光りと行ったら楽しいだろうな~」
高野がパッと顔を上げる。
その目は爛々と輝いている。
「露天風呂もあんだぜ?
草津からわざわざ取り寄せた温泉だ。
確か外には露天風呂と打たせ湯があるとか言ってたな~」
「井坂!」
「井坂さん!」
井坂以外、全員の声が上がる。
「それはいつ行けばいいんだ!?」
身を乗り出す皆を代表する形で桐嶋が訊く。
「1月2日。オープンが20日だから、その前に直すとこ知りたいんだってさ。
いいよな~ヒ・メ・ハ・ジ・メ」
姫始め…!!
その一言で全員に一体感が生まれ、顔を見合わせ頷き合う。
「まあ正月だし?
行けないやつは無理しなくていーから。
詳しいことはメールすっから今日は前祝いだ。
飲め飲め~!!」
何の前祝いかは不明のまま、飲み会は超盛り上がったのだった。
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